2005懐中時計

峯山に流れる時は、下界とかなり違っています。ゆったりと流れているようで、気が付けば思わぬ時刻になっている、そんな感じです。
山仕事のとき、昼食や終了時に時を知らせる必要がありますが、この役目は私が担っています。
そのためにいつも腕時計をつけているのですが、作業が作業なのでよく壊します。先日も2台目の時計バンドがダメになりました。それで思い出したのが懐中時計です。ずいぶん前にスイス土産として貰ったのですが、こんな不便なもの使えるかと放っておきました。しかし、今回思い直して山に持っていってみると、これが結構いけます。
そろそろ時刻かなと思い、鎖を手繰って懐中時計を引き出し、ボッチを押して蓋を開け、のぞき込みます。この一連の動作は、山に流れる時と奇妙に合います。それからおもむろに呼子を吹きます。
以前は、時間がくると各人の作業現場に出向き、大声で知らせていたのですが、ひろーい作業域中にばらばらに作業をしているので、伝えるのに難儀していました。そこで呼子を使うことにしました。
ピー、ピッ、ピーが時間だよの合図です。ここまでは順調なのですが、このあとがいけません。
みんな目の前の作業に熱中しているのでなかなか切り上げません。そこで再び呼子が鳴ります。
まるで時代劇の捕物帖の世界です。
下界との違いは、時の流れのほかにもあります。これから暑くなる季節ですが、山で暑さを感じることは滅多にありません。風の流れのせいか、実際の気温差なのか分かりませんが、仕事を終えて山を下り、バス通りにでると申し合わせたようにこう呟きます。「下界は暑いね」
多分、みんな山仕事が大好きなのです。フィトンチッドが溢れる山中で、好きな作業、しかも皆に喜ばれる作業をしている幸せ感が暑さを忘れさせるのかも知れません。これもまた峯山タイムです。